Yasushi Sugimoto

Texts

002. 代表作は次の作品

杉本靖

 たまに「代表曲はどれですか?」のようなことを訊かれることがある。

 つくっているほうとしては、そんなものあるわけがない。なぜなら、そんなものが存在してしまったらそこで創作活動が終わるからである。

 それに、ひとつの曲で自分のすべてを表現しているわけではないので、なんというか、どの曲もいわば「部分」なのである。

 さらに、いつも不完全燃焼の感覚がどこかに残る。でもそれがあるから、次の作品をつくろうと思うのである。なにかがずっと心の奥にあり、いつもとり出せない。「次はとうとうそれを表現できる」と毎回思う。

 なので代表作は、次に発表する曲である。「自信作はどれですか?」なら「全部!」なのだけれど。

「不完全燃焼なのに自信作とはどういうことだ」と言われそうだが、そう思うのだからしかたがない。このあたり、表現者のかたなら共感していただけると思う。

 次が代表作とずっと言いながら死んでゆくのだろうが、それでいい。そもそも人生自体がそういうものだ。誰もが「明日こそは素晴らしい日になる」ってずっと思いながら死んでゆくのだ。

 だからこそ人生は楽しい。音楽家としても、人としても。

 なんにも考えないで書きはじめたのだが、どうしてこんなこと書いちゃったんだろうなあ……。